2016年8月5日金曜日

【俳句新空間No.3】平成二十六年甲午俳句帖 [杉山久子]/東影喜子


秋の蚊の脚のふれゆく広辞苑 杉山久子
秋の蚊から垂れている頼りない脚が広辞苑に触れる。やや力のなくなってきた飛行を見て、作者がそう感じたのかもしれない。広辞苑の印字を見つめていると、広大な海に迷い混んでしまったかのような気持ちに、ふとなることがある。秋の蚊のその後を、私は見たことがない。広辞苑に触れた脚は、この後どこに降り立ったのだろう。それともどこかで迷ったまま帰ってこないのだろうか。