2017年1月13日金曜日

【俳句新空間No.3】夏木久作品評/ 大塚凱


 本作は西行の和歌十二首を引用し、その一句一句に問答する形で計十二句が並べられている。西行の〈心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ〉に対して〈もうすでに自暴自棄なり百合鷗〉と遊んだり、かの著名な〈道のべに清水ながるる柳陰 しばしとてこそ立ちどまりつれ〉には〈墨東の柳にティッシュもらひけり〉と滑稽さで応えている。

   月を見て心浮かれしいにしへの 秋にもさらにめぐり逢ひぬる

  月光は土砂降り子らの踊り出し
この句の「踊り出し」を季語と捉えるかどうか難しいところだが、月光のなかで子らが踊に混じり出したと解釈した。「月光が濡れている」などの表現はかなり手垢がついてしまっているが、「土砂降り」まで言い切った大袈裟が良い意味で馬鹿馬鹿しい。

   吉野山こずゑの花を見し日より 心は身にもそはずなりにき


  鮮明な義眼の夢を水中花
不思議な句だった。義眼が水中花を見ている空想のようだが、義眼を水中花が比喩しているようでもある。そのわからなさが一種の魅力なのであろう。義眼のまなざしの向こうに、一輪の水中花が灯っているようだ。